相対震源決定による、読み取りデータの自動修正機能を備えた自動震源決定システム
 この自動震源決定システムは、弊社ホームサイスモメータと飯尾能久先生(京都大学防災研究所)、加藤愛太郎先生(東大地震研)、岡田知己先生(東北大学大学院理学研究科)との共同研究によるものである。 以下は日本地震学会2022年度秋季大会発表内容からの引用。

1. はじめに
 株式会社 ホームサイスモメータは(堀内他、2009)、到着時刻の自動読み取り、震源決定システムの開発を行っており、精度の高い自動震源決定システムを構築している。しかし、各種ノイズの混入のため、全ての観測点の読み取りを正確に行うことは難しく、間違った震源を決定する場合もある。
自動震源決定では、走時残差を利用して、間違った読み取りデータの削除が行われているが、地下構造に大きな不均質性が存在するため、読み取り誤差と、不均質性による走時残差とを区別することが難しい。一方、隣接して発生する2個の地震を相対震源決定すると、不均質性の影響が相殺され、走時残差は小さくなる。従って、相対震源決定の走時残差を用いれば、自動読み取りの誤差が大きい観測点を自動検出できる可能性がある。我々は、一個の地震について、その近傍で発生するマグニチュードの大きい地震を数10個選び、一個の地震と、数10個の地震との相対震源決定を行うことにより、その地震の各観測点での読み取り誤差を検出し、自動修正を行うシステムを開発した。また、自動震源決定に適した相対震源決定手法を開発した。以下にその方法と、結果について、述べる。

2.複数の地震の相対震源決定を用いた読み取り誤差の推定方法
 隣接して発生する地震を、相対震源決定すると、パスの違いによる不均質性の影響が相殺され、走時残差を小さくすることができる。また、大きい地震のS/N比は、小さい地震のそれに比べ高く、読み取り精度は高い傾向にある。以下に、自動震源決定された地震Akについて、その近傍に震源決定された複数の地震の到着時刻データを用いて、地震Akの間違った読み取りデータの検出、および、読み取りが行われなかった観測点の再読取り方法について述べる。
 先ず、地震Akの近傍に震源決定され、かつ、マグニチュードの大きい地震をN個(Bkm)選び、Akとの相対震源決定を行う。一般に、震源距離の近い観測点のS/Nは高く、読み取り精度が高いことから、相対震源決定では、近い観測点の重みを大きくした。また、自動震源決定では、間違った読み取りデータが混入する場合があることから、相対震源決定の残差が、残差の2乗平方誤差の2倍以上のデータを削除し、再決定するようにした。削除後の、P波、S波合わせた読み取り点数が5点以下、あるいは、走時残差が閾値を超える場合には、相対震源決定を行わないようにした。
 地震Akのj観測点の読み取り値をAkj、地震Bkmとの相対震源決定の、j観測点の走時残差をRkmjとする。N個の全ての地震について、j観測点の到着時刻が読み取られていると、j観測点についての走時残差はN個になる。次に、複数の走時残差の分布の特徴から、Ak地震のj観測点の読み取り値Akjが正しいかを判定するようにした。
 Akjの読み取り誤差が大きい場合は、走時残差、Rkmj の平均値が、0から、誤差分だけずれる。そこで、Rkmjの平均値(Rkm)と、2乗平均誤差(σkj)を求め、Rkm の絶対値がσkjの2倍以上であれば、Akjが間違っていると判定するようにした。
 地震Bkmのj観測点の読み取りに誤差がある場合は、その地震に対応する誤差が大きくなり、それが原因で、平均値や、2乗平均誤差を間違える可能性がある。そこで、Rkmj が、σkjの2倍以上であれば、そのデータは削除し、RkmとRkmj、および、σkj を再計算するようにした。Akjと、走時残差の平均値Rkmとの差は、Akjの理論値(Tkj)であり、2乗平均誤差は、その推定誤差を表す。
 Ak地震のj観測点の読み取り値Akjが存在しない場合で、地震Bkmのj観測点の読み取り(Bkmj)が存在する場合は、相対震源決定を行うことにより、地震Bkmの地震毎に、j観測点の到着時刻の理論値を求めることができる。Akjの到着時刻が存在する場合と同様に、個々に求められる理論値から、到着時刻の理論値Tkjと、その2乗平均誤差を求めた。
 上述の方法で、Akjの理論値及び、その2乗平均誤差(σkj)を求め、間違っていると判断された読み取り値、あるい、読み取りが行われていない観測点の場合は、Akjが存在する時間範囲が、(理論走時―2σkj)〜(理論走時+2σkj)の時間区間であるとして、その区間内に、顕著な位相が存在すれば、自動読み取りを行うようにした。

3.相対震源決定
 Waldhauser & Ellsworth (2000)によるHypoDDは、解析する全領域で発生する全地震の相対震源決定の誤差が最小となるように震源決定する方法である。自動震源決定は、日本列島全域で発生する地震を対象にして行う場合もある。また、地震は、毎日発生することから、地震が発生する度に、過去に遡って、HypoDDを行うと、計算機の負荷は膨大になる。そこで、ここでは、上記N個の地震Bkmの震源位置をレファレンスとして、N個の地震Bkmとの相対震源決定の走時残差の2乗和を最小となるよう、Akの震源位置を求めるようにした。すべてのAkについて、この震源決定を行うと、Bkmに属する個々の地震も、同様に、周りで発生するN個の地震で相対震源決定される。この操作を2回繰り返し、相対震源決定されたBkmの地震位置をレファレンスとして、Akの地震の相対震源決定を行うことも可能である。

4. 2016年鳥取県中部地震の結果

5. Hi-netデータを用いた相対自動震源決定